わたしが生まれた年、長かった戦争が終わった。


その戦争でわたしは両親を亡くし、今は、というか物心がついたときには既に叔母がわたしの面倒をみてくれていた。

叔母はわたしのお母さんの妹で、わたしと髪の色は違うけど(叔母はお父さん似でお母さんはお母さん似だったらしい、つまりわたしはお祖母さん似なわけだ)、目の色は全く同じ。

だからわたしはわたしの叔母が本当のお母さんなのではないかと睨んでいる(わたしの髪は未だ見たことのないお父さん似なのではないか)。


この家には、わたしのお母さんとお父さんに関わるものは何もない。一枚の写真も、ふたりのものだったという品も。
叔母はわたしにふたりの名前すら教えてくれないのだ。他の色々なことも、口の達者な(叔母曰く、わたしのお母さんはもっと饒舌だったらしいけど)叔母に上手くかわされてしまう(そんな曖昧な存在を、単純なわたしが信じられるわけがない)。


それならば、今までに話したお母さんとお父さんのことをどうやって知ったのかと言うと、休みの日のティータイムに、叔母がぽろりとこぼすのだ。


あなたのお母さんはとても聡明で美しい人だったのよ。美人薄命って本当なのね。あなたもお母さん似だから気を付けなきゃね。

お父さんはとても強くてね、お母さんを守るためにお母さんを置いて軍隊に入ってしまわれたのよ。でもちゃんと帰ってきたの。


戦争では、ふたりは死ななかった。戦争で死んでいたら、わたしが戦争の終わった年に生まれるはずがない。

戦争で何もかもを失い自棄になったどこかのだれかが、道端でライフルを打っ放し、それに運悪く当たったのだと。そして更に運の悪いことに、たった二発の銃弾が、それぞれお母さんとお父さんの心臓を貫いたらしい。
偶然といえど、その人が兵士として戦争に赴いていたら、或いは歴史は変わっていたかも知れない。かも、だけど。


とまぁ、ここまで細かな設定があるのに、ビジュアルや痕跡だけが残ってないのは、わたしには納得のいかないらしい。


明確な証がないので、やはり母親は叔母で、父親はどこかの誰か(父親の設定だけは事実なのではとも)なんじゃないかと推測している。



叔母がどうしてそんな嘘を吐くかはわからないし、それにしても父親の痕跡もないのはおかしなことだと思う。


でも、それでもわたしはいいと思うのだ。


何故なら、わたしたちは上手くやれているし、これからも上手くやっていける自信がある。





◆補足ッ
いや、叔母の言っていることは本当ですよ。
あわれ実親。
戦争中、お父さんとお母さんのふたりは色々とやんちゃしたので、表舞台には出れなかったのです。
死んでからも、迷惑がかかるので。