※これは『世にも奇妙な物語』で映像化されていた『48%の恋』の設定をお借りしたパロディ作品です
僕は、天使になる。
天使は、地上の人間に幸せを運ぶ存在。
多分、僕も遠い昔には人間だったのだろうけど、なんの因果か、次は僕か人間に幸せを運ばなくてはいけないらしい。
「お前には天使になるための試験を受けてもらう」
ここで出逢った人(いや、天使?)は彼だけ。
敬愛を込めて先輩と呼ぶことにする。
先輩は、右も左もわからない僕のような見習い天使を導くため、ここに居る。それも、恋人を待つために。何故か先輩には人間だった頃の記憶があった。
導く天使は、めったに異動がないらしい。あちこち飛び回るよりはここで新人と対面し続ける方が、確率は上がると考えたのだと。
その予想は見事当たり、彼は念願叶って愛しいひととの対面を果たした。
というのが、先輩のこれまでの話だ。ちょっと涙ぐましい。
僕はというと、人間だったときの記憶なんか無いし、そもそも人間だったのかも定かじゃない。
「おい、聞いてんのか」
「いやだなぁ、ちゃんと聞いてますよぅ。ね、先輩?」
「兎に角、お前には一度地上に降りてもらう。で、テキトーに寂しそうな男女引っ掛けてくっつけてこい!」
なんの前触れもなく、乱暴な足に背中を蹴り飛ばされ、痛みと共に僕は人間の蔓延る地上へと落ちて行った。
「ふう。先輩ってば乱暴なんだから」
落ちたところが芝生で良かった。天使だって、ぶつかったら痛いし。実体はないから人間には見えたりしないけれど、こっちからは物質でも生物でも触れたり出来るんだよね。
辺りを見渡せば、ここは公園の一角のようで、子供連れの夫婦やデート中のカップルが至る所に散らばっていた。
「うーん、みんなパートナーがいるのかぁ。どの子にしようかな」
しばらく公園を歩いてみた。休日らしく、どこを向いても夫婦やカップル。
しかし、そんな中でひとりベンチに佇む男。
「うん、彼にしよう」
うなだれている男の顔を覗いてみると、休日の公園にひとりきりとい淋しい生活に相応しく、色事に興味の無さそうな顔をしていた。
「決めた。変にマセてる方が難しかったりするだろうし」
僕に手伝ってもらえることに感謝するんだね。じゃないと、キミ一生結婚できないかも、なんて笑いながら。
一緒に生活するうちに(と言ってもあっちは僕のこと見えてすらいないのにね)、わかったこと。
この青年が、とてつもなく『いいひと』なこと。
お年寄りに席を譲るのは若者の義務、道に迷ってる人がいたら目的地まで案内するのが当たり前。
そんな、現代社会では稀少価値の高い青年だった。
「この間も、となりのマンションの可愛い女の子助けてそれっきりだし。メールアドレスくらい聞いたらいいのに」
青年は今にも自壊しそうなボロっちい木造アパートに住んでいた。それが似合うといえば似合うのだが。
そしてそのアパートのとなりには高級ともいえる高層マンション。まさに天と地の差だ。
あっ、じゃああの女の子でいいじゃん。うん、あの女の子にしよう。可愛かったし、ホント、感謝してよね。
じゃなきゃ、休みの日に公園で日向ぼっこするような男、一生結婚出来ないだろうし?
まずは、あの子と知り合いにしなきゃ。どうしようかな。やっぱり運命性のあるものがいいよね。
僕はドラマティックで女の子が憧れる出会いというのを演出し、なんとかデートをする仲まで昇華させた。
しばらくして。
男があの女の子とのデート中に言った。場所は洒落たレストランだ。これも僕の入れ知恵。彼の家の目の付く所に、そういう雑誌を置いといたわけ。
「ちょっと聞いてくれるか」
「なぁに、どうしたの?」
「お前と出会うちょっと前からな、どうも背中が暖かいんや」
「へぇー、おかしなの」
女の子は笑った。そやな、と彼も笑った。僕はというと、笑えるはずがなかった。
その日は気の利いた手伝いもすることが出来ず、女の子に「今度メールするね」と言わせて帰してしまった。
もっと何かあるでしょ、きみ。一人じゃ彼女を口説くこともできないの?
…出来ないよね、全部僕が手伝ってきたんだもん。
僕にしとけばいいのに。
僕は先輩みたく彼が天使になるまで待っていられるほど気が長くないし、だいいち僕が天使になるには彼の恋を成就させなければならない。
ローテーブルに無造作に置かれたケータイを手に取ってみると、可愛いあの子からメールが届いたことを示している。
僕はケータイを乱暴に床へ放り、思いっ切り踏んづけた。
「いらっしゃいませ」
「ケータイ、壊れてしもたんやけど」
「修理ですか?こちらにお座りになって下さい」
「おん。あれ…」
「どうされました?」
「兄ちゃん、どっかで会わんかったか?」