「王よ、貴方は偉大だ」
数年前まで革命という戦火に包まれていた国。
それを治めたのは、革命で真っ先に犠牲になった前王の、息子だった。
前王が犠牲という名の暗殺で命を失い、以前以上に混沌と化した国を救ったのは、前王の息子。
最初こそ反乱などあったものの、前王の強引な独裁とは違い、自由主義を認め王族・貴族を贔屓しない政治と健気な姿に平民は心打たれ、すっかり国も安定し、平民からの人気は計り知れなかったりする。
今や美しき少年王は国そのものだった。
「僕は、只の人間だ」
「いえ、貴方は王です」
「王は人間ではないと言うの?」
「私どもとは価値が違います」
美しき少年王への憧憬の念は、もはや信仰に近かった。
「怖かっただけなんだ。
目の前で殺された父、母。父が殆どの国民にとって良い王では無いという事はわかっていた」
夜毎きらびやかなパーティを開く王の宮殿。
そのために課される重税、加えて今年の不作。
国民が爆発するのにこれ以上の理由はいらない。
「僕は怖かったんだ。
父のように、母のように、愛する国の民に殺されるのが」
前王は国を愛していた。
自身の国と、その民を愛していた。これは事実だ。
だが、愚かだったのだ。
いや、優秀すぎたのかも知れない。どんなことも、器用にこなせたから、本人も、周りの人間も、政治を前王に任せきりにした。
結果がこれだ。
前王は、もういない。
「僕はただの臆病者だ」
だから、国民の望む通り自由主義を認め、政治を他人任せにした。
自分の国なのに。
王は憂い、顔を下げた。
「顔をお上げ下さい。それでも貴方は素晴らしい王です」
「いいや。僕にはまだ命の危険が付き纏うだろう」
アンシャン・レジームの崩壊で、特権階級だった者たちから不満の声があがっている。
邪魔な王を消し、新たな王を立てるのも、難しい事じゃない。
「ねぇ、君は?一緒に闘ってくれるの?」
「俺が、貴方を守りましょう、我が王よ」
美しい少年王と、その忠実な家臣の話。