どこまでも続いているのではと、錯覚するような長い廊下。
中庭に隣接しており、朱塗りの手摺の先には優美な沈丁花が咲き乱れていた。庭の反対には閉め切られた障子。
和にも中華にも取れるこの建物。
いつの間にか、この場所に自分は居た。
誘われるように廊下を歩く。長い長い廊下をただ歩いていた。
気付けば、また違う場所。
今度はちゃんと座敷の中に居た。だが欄間や窓の装飾は、至って中華風だった。窓の外は、白くぼやけていて何も見えない。何も無い様に見える。
正面の襖を開けてみた。同じ様な座敷が広がっている。
また、誘われている。
襖を小気味良く開けて行く。だいぶ進んだところで、今までと違う絵が描かれた襖にたどり着いた。
少し躊躇い、そして開けた。
「ほー、結構早く辿り着いたな。予想以上だ」
豪華な肘置きに凭れ、煙管をふかしている。
着物を着崩した女性、いや男性が、そこには居た。
「お前は望みがあるのだろう。安全しろ、叶えてやる」
「な…」
「代りに俺の願いも聞いてもらうがな」
美しい黒髪の男は美味そうに煙管を噛んだ。
「罪の或る人間しか此処には来ない」
「つ、み…?何、言って」
「知らない振りか?そうだ、忘れたいんだもんな」
「だから、僕は…」
男は上体を起こし、開いた右手で自身の胸を差した。
美しいのに、不気味な笑みだった。
「刺すだけか?ほら、切り裂いて抉って、臓物を取り出してみろよ」
「、…っ!」
知らない。分からない。そのはずだ。そのはずなんだ。だって僕は、無関係なんだから―。
「とても重い罪だ。なんたって、自分の種を―」
「だっ、黙れ!俺は、僕は、」
「関係ない、と言いたいのか?」
でもあれは、お前の父親だろう?
頭のなかが、真っ白になる。この窓の外みたいだ。
嫌な汗が、背中を伝うのがわかった。指先が震える。力が入らなくて、上手く拳が握れない。
男の方はというと、知らん顔で煙管を食んでいる。薄く開いた唇から、ゆらゆらと紫煙がくゆる。
「後悔はしているけれど、悲しくはないみたいだな」
その一言が決定打だった。
僕は叫び、その場から逃げ出したい一心で走った。
走った。走った。
そこは、自分の家だった。
「僕、は…」
まだ、感覚が残っている。何年も前の話だ。子供だった。だから、感情に任せてあんなことを。
全身に汗をかいていた。肩で息をしている。
全力で走ったからなのか、それとも。触れられたくない部分を嬲られたからか?
あぁ、僕は、無かったことにしたかったのか。
「なんだ、帰ったのか」
「可愛かったからな。少し弄り過ぎた」
「ふん、それは残念だったな」
「妬いているのか?」
「バカを言え」
罪のあるもののみが訪れることのできる場所。いや、赦された場所。
そこの主人はそれはそれは美しい男で、望みを叶えてくれるという。
「向き合うことが出来たなら、無かったコトにしてやっても良かったのに」
「お前は甘い」
「そりゃどうも」