彼女はぼくの幼馴染みで、相当な美人さんだ。
高校から同じ学校に通うことは無くなったので詳しくはわからないが、たぶん頭も良かったと思う。
今時珍しい長い美しい黒髪で、陶磁器のように白い肌。目は細め。
だけどきつい印象を受けないのは、彼女がこれでもかってくらい小柄だからだろう。
そしてちっちゃいから、同い年なのにどうも妹というイメージが抜けない。その前に、血縁者でもなんでもないけど。
家はお隣。親は仲良し。
そんな感じで仕事の忙しい姫凛の両親(彼女の家は相当のお金持ちだ。つまりは、そういうこと)はよく姫凛をぼくの家に預けていたもんだ。
それはまぁ高校生まで、というかぼくらがお互いに家を出るまで続いた。年頃のおんなのこを年頃のおとこのこが居る家に預けるのもどうかと思うけど、今の物騒な世の中は独りで留守番させている方が恐ろしいから仕方ない。
まぁそれは置いといて。
とにかく、お互い無事に高校を卒業したぼくたちは、親元から離れて独り暮らしを始めた。偶然にもぼくの通う大学と彼女の通う大学は(学力の大きな差はあれども)同じ市内にあったので、ぼくたちの借りたアパートも結構近い距離にあった。
そして当たり前のように彼女の引越しを手伝ってたその日、彼女はぼくに言ったのだ。
「会わせたいひとがいる」と。
ぼくに会わせるより、おじさんとおばさんに会わせた方がいいんじゃないかとも思ったけど、彼女としては一足先に兄貴に紹介するような気分なんだろう。
確かに、いきなり両親に紹介するよりは義兄さん(あくまで気分的な問題だ)を見方につけたほうが良策といえば良策だ。
ぼくとしては、そこまで信用してくれていることに喜びを感じたと同時に、妹が嫁に行くという寂しさ(気が早いかもしれないけど)を、ひとりっこの筈なのに味わった。
「どんな人?」
「優しい、素敵な人」
姫凛はものをはっきり言うタイプだ。謙遜もしないし、遠慮もしない。人を見る目は厳しめだ。
その姫凛にここまで言わせるとは。
こんな美少女(年齢的にはもう違うけど見た目は)を捕まえたラッキーなやつはどこのどいつだ?
「で?外で待ってるんじゃないの」
「うん」
「早く部屋に上げてあげなよ」
姫凛は無言で玄関へ向かっていった。用意周到、というか個人主義な彼女のことだから(高校時代、バイトを始めると両親に報告したのも面接が終わり内定が決定した後だった)、ぼくの事情なんか気にしないで連れてきていると思ったんだ。
とりあえず座って話すスペースくらいは作っておかないと。ぼくはダンボールをひたすら部屋の隅に寄せた。その間に、姫凛は例のお客さんを連れてきていた。
「伊和、」
「あぁ、こんにちは。伊和といい…」
「こんにちは!姫凛さんとお付き合いさせて頂いてます、綺羽と言います!」
思わず指をさしてしまった。お客さんに、姫凛の大切な人になんてことを。
でもこの時の衝撃といったら。
「姫凛…?この…」
「わたしのこいびと」
「よろしくお願いします、姫凛のお兄さん!」
だから血の繋がった兄ではないとか(だからといって血の繋がらない今流行りの兄でもないけど)、姫凛が迷惑かけてないですかとか、引っ越したばっかりでまだ少しのダンボールも片付けられてなくてごめんねとか、あなた女性ですよねとか。
そう、女性。
おんなのこ。
姫凛が連れて来た会わせたいひと(恋人という確認もとった)は、女性なら誰もが羨む豊満な胸と、それでいて均整のとれた体をした、
立派な女性だった。
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