中メトロポリス

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「…いつから?」
「高校一年のとき」
「うそぉ!」
「ほんと」


幼馴染みで家族同然に育った姫凜が、恋人をぼくに紹介してきた。

その恋人が、女性だった。
ただ、それだけのこと。
それだけの…。

「はは…」

無意識に顔の筋肉が笑みを象った。日本人愛用の愛想笑いってヤツだ。ちょっと違うか。正確には『開いた口が塞がらない』。
そして、動揺したらとりあえず笑っとけ精神だよね。

「お兄さん?」

ほら、姫凜の彼女さんが、綺羽さんが、怪訝そうな表情で僕を見ている。不快な気分にしてごめんね。


「伊和は、いやなの」
「…へ?」
「わたしが、女の子と付き合ってるの」

あぁ、付き合うの、じゃなくて、付き合ってるの、という言い回しに年季を感じるね。
じゃなくて。

「別にいいよ。認めてくれなくても」
「姫凜…?」
「ただ、伝えておきたかっただけ」

一拍おいて、姫凜は言った。

「わたしはこいつを選んだの」


幼馴染みで家族同然に育った姫凜が、恋人をぼくに紹介してきた。

それだけ。
それだけって、なに。
どこまでが許容範囲で、どこまでイッたらアウト?
それは、ぼくが決めていいの?ぼくは決めれるの?


頭をがつんと、思いっ切り殴られた感覚がした。
姫凜はどれだけぼくの後頭部にダメージを与えれば気が済むのだろう。


「そっ、か」
「そう。わたしはこいつが良いの」
「姫凜…」

綺羽さんが赤くなった。照れてる。
控え目に握っていた綺羽の手を、姫凜はぎゅっと強く握り直して。


ぼくは、まだ妹離れが出来なかったみたいだね。
そう考えると、胸の奥でなにかがストンと落ちた。あれ、当たり?

彼女という事実より、3年も前から恋人がいたのに、それに気付かなかった自分、教えてくれなかった姫凜に、ぼくは憤りを感じてたのか。


「うん。僕は何も言わないよ。姫凜が選んだんだもん」
「伊和?」
「在り来たりだけど、当たり前だもんね。姫凜が選んだなら、ぼくは何も言えないし、言わない」

もう愛想笑いじゃなくて、心からの笑顔だ。


「おにーさん…っ」
「いや、だから」
「なんて寛大なの!感動した!やっぱり姫凜のお兄さんだね!」

綺羽さんはその大きな目をさらに大きくさせて、もっと言うときらきら〜っとさせて、熱く僕を見つめてきた。

少し…罪悪感。
うん。


「というか綺羽さん」
「何ですかお兄さん!いや、義兄さん!」
「お、義兄さん…」

姫凜、彼女になんて言ったの。
視線で助けを求めると、いつもより饒舌な彼女は訂正を入れてくれた。

「兄弟じゃないよ」
「へ?…あ、ええっ?!」
「そんなに?!」

その驚嘆の叫びは、出会い頭の元気な挨拶よりでかかった。
…ぼくの声もでかかった。近所迷惑だよ全く。責任転嫁じゃないよ。


綺羽さんは姫凜と繋いでいた手をそっと離し、ぼくを指差した。
そしてぼくと姫凜を交互に見る。


「え、だって…」

「うん?」

「顔似てるよ」


マジで!
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