高校のとき。
クラスにいつも一緒にいる女子が居た。
別に女子がワイワイつるむのは珍しいことじゃないけど、その子たちはどんなときも2人っきりで、むしろ他の子を寄せ付けないオーラを放っていた。
それで、思春期のそんなことばっかり考えてる高校男子は邪推した。
あの2人は、デキているんだと。
歩くときは手繋ぎ常備、座るときは膝抱っこ基本。
確かに、疑いたくもなるだろう。
下手な恋人よりよっぽどいちゃついてるんだから。
当時の僕は、そんなのに興味も感心も偏見もなかったので、気持ち悪いほど仲良いなーとしか思わなかった(嫌悪じゃなくて考えられない程、という意味の気持ち悪いだよ)。
今ならわかる。
あの2人は、
やっぱり気持ち悪いほど仲が良かっただけなのだ。
どれだけいちゃついてても、彼女らが纏うオーラは仲の良い友達、のもので(近くに居たわけじゃないからそれしか感じとれなかっただけかもだけど)、恋人同士、とはまた遠いものだった。
と、今にしてみれば思う。
どれだけ淡泊な付き合いだったとしても、付き合いを隠していたとしても、当人たちが2人でいるところを見れば友達か恋人かなんて容易く判断できる。
ようになってしまったよ、僕は。
だってオーラとか、雰囲気とか、そんな感じのが違うもの。友達と恋人とはね。
まぁそんなことに気付いたのはごく最近で、もっと言うと姫凜が綺羽と付き合ってるとー僕に告白(というより暴露)した時。
カミングアウトしたのをいいことに、2人が僕の前で堂々と(姫凜は綺羽の存在すら今までは隠してきた)らぶらぶするようになってから。
堂々といちゃついている、と言っても、目の前でキスとかそれ以上のことを繰り広げられているわけじゃなくて、例の彼女らと同じ、手を繋いで歩いたり、膝抱っこで座ったりとほんの些細なことだ(それも些細なんだか…どうも感覚が鈍ってる気がする)。
それでも、姫凜と綺羽は確実に恋人同士だってわかる。
それはカミングアウトされたからじゃなくて、もっとこう、さり気ない仕草とか、雰囲気的なもの。
「じゃ、ぼく帰るよ」
3人で観てたテレビ番組の、キリが良くなったところでぼくは立ち上がった。
「えー、もう?まだ早いよ」
「今日出たレポート、難しめだからさ。早めに退治しときたいんだ」
うっとりとかぼちゃプリンに舌鼓を打っている姫凜のかわりに、綺羽が返す。
「そう?」
「伊和、ばいばい」
「せめて玄関くらいまで見送ってよ姫凜…」
「ほら姫凜、すたんだーっぷ!」
綺羽にせき立てられ、すっくと立ち上がる姫凜。ぼくの言うことは聞かないのに…。
お兄ちゃん悲しいよ。まぁ血の繋がりはないわけだけど(お約束)。
「明日も来るでしょ?」
靴をはいて、さぁ帰りますってときにようやく見せた姫凜のデレ(それでもかぼちゃプリンは離さない)。ちょっとデレるの遅くない?
「うーん、レポート次第かなぁー」
「そんなに?」
「そんなに。先輩も一年は遊ぶヒマないくらいレポート三昧だって言ってたし」
「…そう」
あ、ちょっとしゅーんとした。なんだかんだで、ぼくも愛されてるんだなぁ。
でも姫凜、綺羽がちょっと(いやかなり)むっとした表情をしてぼくを見て(睨んで)るよ。
姫凜と綺羽のマンションとアパートの、遠くない距離を歩いて帰りながら、ぼくはひたすら明日のことを考えていた。
明日、本当にどうしよう。
本当はレポートなんて嘘っぱちで(課題として出されたのはホント)、全然お邪魔できるんだけど。それでは、文字通り『お邪魔』になってしまう。
結局あの二人は恋人どうしだからね。
ぼくとしても、今日明日は遠慮したい。それというのも、今日の夜は確実に営むからだ。…ナニとは言わない。
「(わぁ、こんなことまでわかるようになってしまった…!)」
ここまで近くに、というか一緒に居ると、いつ愛を営むのかも、さり気ない仕草とか、雰囲気的なもの、でわかるようになってしまった。
「(もうちょっと鈍感に生きたい…)」
妹(的存在の)のそんな事情なんて、知りたくもない。
明日、姫凜と綺羽に会えば『あぁやっぱり』という展開にひとり陥ってしまう。
でも、あの姫凜のしゅんとした様子からして、行かないと綺羽からの風当たりがきつくなりそうだ。
行ったら行ったで姫凜の艶っぽくてしおらしい態度(体が怠くて)に、なに考えてんだってあらぬ疑いをかけられてしまう。
これぞ板挟み。
「(明日…風邪引かないかな)」
地味にかなり追い詰めれている伊和だった。
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