月始めには、本部から送られた諸情報の入ったチップが送られてくる。そのチップの中には、狩りの大まかなシフト・タイムテーブルや、先月の仕事具合が入っていて、日程表兼通知表の様なものだ。

そして、そのチップにはいったタイムテーブルの時間から30分遅れ、紀からの通信から15分遅れ。やっと指定位置に到着した。

「嶺、遅刻。今月始まったばかりなのよ」
「悪い。ぼーっとしてた」
「たるんでるぞ、太陽でさえ時間前に来たというのに!」
「岐、ひどい」
「嶺がぼーっとしてんのは今に始まったことじゃないってね」

チームゼロは、ナンバーが示すように特別なチームだ。
この世に革命的な発言をもたらし“病姫”を名を馳せたNo.NULL、紀。NULL(ヌル)は「なにもない」を表す。革命児である紀に他のこどもと同等の番号を付けられなかったということ。

堅い印象のNo.W(フィアー)は岐。
紀に次ぎ、チームゼロのブレーンといえる。チームナンバーが若い程、識別コードが若い程、優秀な“絶望”だ。岐が飛行盤で飛ぶ速度はNo.Uの俺でも勝てない。

そんな彼になじられているのはNo.X(ヒュンフ)の太陽。
普段これ以上ないって位ちゃらんぽらんな彼にまで遅れをとるとは、ちょとした屈辱だ。

軽いカンジの女の子は詩詠。彼女は俺の幼馴染で、“病”発症後の「人格干渉」にひとりだけ当て嵌まらなかった。故に、No.V(ドライ)。

チームは基本的に5人構成で、それはチームゼロも変わらない。No.0とNo.Xのいる俺らが何故5人かというと、ニホン国の“絶望”にはNo.Tが存在しないのだ。
だから、俺は文字通りのNo.U(ツヴァイ)。

「リーダー、全員揃ったし、出発しましょう」
「そうね。嶺、遅れてきた貴方が先導しなさい」
「後方だとまた遅れそうだからな」
「うっせ。ほら、行くんだろ」

軽やかにボードに乗り、片足で地面を蹴ると、目には見えない毒気粒子の波に乗ってボードが滑る。それを、この国では「飛ぶ」という。

「ちょっとー今日の狩場わかってんのー?」
「ナビしろ、詩詠」
「いえっさー」

本日も彼女は絶好調らしい。“病”にかかってるというのにここまで明るく、気丈に振舞える奴はいない。まぁもともとの性格がこれなんだけど。
スピードが速過ぎるようで、ナビを快く引き受けた詩詠だがバランスをとるのに必死だ。俺は少しスピードを緩めてやる。
飛行盤は飛行艇とは違い、ライダーが自ら高い波に乗らない限り超低空飛行で地上1・2メートルの地上循環毒気を滑る。
だから別に落ちても平気なのだが、今はかつて「海」と呼ばれた巨大な水溜りの上。毒気のせい(この時代の人は全て毒気のせいにしておけば片付くと思っている)かどうかは忘れてしまったが、とりあえず何かの負の要素で「海」は干上がりところどころ堅い岩肌が露出している。その割に、底は結構深いのだ。そのためかニホン国で「海」は「奈落」という呼び方をする。

「今回は奈落か。岐の屈辱戦だな」
「黙れっ。アレはちょっとバランス崩しただけで…」

前の奈落狩りのとき、岐は盛大に奈落へ落っこちた。水のある位置だったから良かったものの、びしょ濡れで帰った彼を紀含む上司がみんなして叱ったのだ。

「バランスを崩すという時点で未熟よ。嶺、止まって」
「急にストップかけんな」
「そうだそうだー」

紀が止まれと言った場所には大きな「陸」があり、ここを目印にして3時間後に集合といった。銛のカバーを置き、調達した食料を入れておくボックスをセットして、それぞれ飛び立つ。太陽は岐をからかいながらもまた一緒に行ったようだ。なんだかんだで仲良いよなあいつら。

俺はいつもの様にひとりで探索しようとしたが、調子よりも機嫌の良かったらしい詩詠がついてきた。

「いいじゃん、一緒でも」
「…全然良くない」